ウォーホル

 安藤百福氏が亡くなってしまった。氏が開発した「チキンラーメン」と「カップヌードル」は本当に偉大な発明だったと思う。以下、かつてコーラやマックやカップヌードルについて書こうとした文章から転用。途中からは半分ジョークですが。


 ある種の完全な味がそこにある。比較を許さない完成された味が。
 正直、コーラの味というのは凡庸で詰まらないものだったりする。シロップとカラメルと炭酸とカフェインからなる、果汁の入らない(コーラナッツやコカの成分は置いといて)その人工の液体は炭酸の刺激でどうにか飲める程度のものだ。それが悪魔の液体に変えてしまうにはいくらか想像力(広告力と言い換えても良い)が必要とされる。


 (省略)


 たとえば、えげつないレストランや高級料亭で飯を食らう億万長者であっても、コカコーラやマック、カップヌードルの前では、我ら凡人たちと等しく頭を垂れ、平等である。彼らだって、カップヌードルからエビをつまんだ時には、僕たちと同じ感慨が湧き上がるだろう。そんなふうに美味しくカップヌードルを食べる権利は誰にでも与えられているし、それこそが民主主義なのだから。

 そして、それらを手にするときのシチュエーション。キャンプでの寒い夜、暗がりの中すすったカップヌードル。野球少年団の帰り、耐えられないほどの喉の渇きを我慢しながら、当時の目一杯の贅沢で買って炭酸にむせたコカコーラ。それらの思い出と共に、刷り込まれてる味であり、プルーストのマドレーヌと同じく、そこからあらゆる記憶を喚起させる力を秘めた存在なのだから。